譜面
-安息のない七日目-
英雄となり大きく膨れ上がった因子に私もまた、押し潰され敗れた。
偉大な調律師は自ら舞台を立ち去り、
残酷な調律師は舞台に上がる事もなく、悪行を尽くした悪魔として人々より千本の槍で貫かれる。
無残な顛末が私の脳裏に過ぎった。
だが、私を罰するのは千本の槍ではなかった。
妻の友たちがボールより出て、私を連行する者達を振り払って逃亡を図った。
友たちによって、私は再び妻の墓標の前に立った。
「……ふふふ、私は、結局父の望みも叶えず、お前の英雄にすらなれなかったのだな。」
「お前は私のことを、どう思っているか。」
「息子を憎む父こそが、化け物か。」
妻の思いなど知れるわけがなかった。
「ここへ連れて来た意味、…最後の報復なのだろう。」
妻の友たちは、静かに怒りを私の背中越しに向けた。
これまでの、妻への懺悔を忘れさせないという報復。
妻への報いすら果たせなかった私をこれ以上許す理由が彼らにはない。
「お前達と共に戦った、あのもう一人の英雄。」
「私や、Nのように膨大な知識もなければ神聖な血縁もない。」
「そんな者が何故、英雄に選ばれたのか。」
「私が得られず、Nは私が意図して与えたものを、あの者は自らの力で手に入れたというのか。」
「…私には分かり得ないな。」
私は友たちに向き直る。
「さあ、お前達が思うように、私に報復するがいい。」
すると、サザンドラが私と彼らの間に入る。
「サザンドラ、どういうつもりなのだ。」
サザンドラが私のほうを一瞥したと思うと、
「主」
はっきりと、声が聞こえた。
私は衝撃を受けた。
「…今のは、お前が…!?」
「主、私も彼等と同じ、貴方の奥様もまた主。」
「でも私、彼等から貴方、守りたい。」
「……それは、これまでの私を知った上でのことなのか。」
「貴方は私の主。私は貴方のポケモン。それだけ。」
妻よ、これが、これこそが、心を聞くということなのか。
Nがして見せたこともまた、これなのか。
不気味だと蔑み、羨望を向けた…それは同じものだったのか。
そして今になって、私はそれを体験した。
妻から贈られたポケモンと共に…。
「お前の忠誠、なんと気高いのだろうか。」
「だが、この報復は達成されるべきなのだ。」
「主…」
報復を逃れようとも、人々がNの言葉により真実を知ったとすれば、
やはり私は世界から向けられる憎しみと責め苦によって八つ裂きにされるだろう。
それもまた、私への罰になり得るだろう。
だがそれでは、妻の友たちの憎しみはどうなるか。
矛先は、私しかないのだ。
「私の死を世界から隠すのだ。」
「世界は私を捜すのに飽き、私を忘れるだろう。」
「所詮人々とは、その程度なのだ。」
「それまで、怒りを向ける方向を消すな。」
「だが彼等は、絶対に私を忘れない。」
「報復は、絶対なのだ。」
サザンドラは、私を見つめる。
「主の命令、それも絶対。」
「でも、世界にも忘れない人、必ずいる。」
「お前もまた、残酷だな。」
「行け。」
サザンドラが東の空へ消えるのを見送る。
そして、それまで微動だにせず私を睨み続けていた彼らへ、再び向き直る。
「……大分待たせたな。」
私は目を閉じる。
闇の中で、私は妻とNの姿を見た。
「―――――――――」
憎しみもまた絆となるのだな。
そして、殺意に満ちた五つの音が響いた。
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